アルツハイマー型認知症にインスリンによる治療の可能性

アルツハイマー型認知症にインスリンによる治療の可能性

 アルツハイマー型認知症の治療において、インスリンが使えるのではないかと期待されています。インスリンは糖尿病の治療で使われているもので、糖をスムーズに取り込みできるように投与される物質です。

 

 2013年九州大学は、遺伝子解析において、アルツハイマー病の患者の脳が糖尿病患者のものと似たような状態であることを明らかにしました。2014年アメリカでは糖尿病の薬インスリンでアルツハイマー病を治療する臨床試験を開始しました。

 

 このような研究により、糖尿病の治療で使われるインスリンがアルツハイマー型認知症にも効くのではとの仮説が立てられ、研究は現在でも進められています。

 

アルツハイマー型認知症の原因にインスリンが関わっていることがわかってきた

 アルツハイマー型認知症の患者の方には、脳に老人斑というシミのようなものがたくさんあります。この老人斑はアミロイドβという物質が沢山溜まっています。
 つまり、アルツハイマー型認知症は、アミロイドβが蓄積し、脳の神経細胞が障害され、神経細胞が死んでいくことで発症すると考えられてきました。

 

 この発症の進行にインスリンが関わっていることが分かってきました。

 

 インスリンとは糖分を吸収するように働きかけるホルモンです。糖尿病の方はすい臓で作られるインスリンの分泌が少ないので、薬としてインスリンを投与します。しかし、インスリンはすい臓だけで作られていると考えられていましたが、最近の研究で脳でもインスリンが作られることが分かってきました。

 

 アルツハイマー型認知症患者の海馬の遺伝子を追跡調査した結果、脳の神経細胞でインスリンを上手く作られていないことがわかりました。

 

 そして、これは糖尿病の方に特別起こるわけではなく、アルツハイマー型認知症の方だけに起こっていた現象でした。

 

 さらにアルツハイマー型認知症の国際研究プロジェクト「DIAN(ダイアン)」でも、正常な方は年齢があがってもそれほど脳の糖の取り込み量は変化しませんが、アルツハイマー型認知症の方は、発症の10年くらい前から低下していることが分かっています。これも糖尿病だから起こっているわけでなく、アルツハイマー病の方の海馬に起こっていることが分かっています。放っておくとどんどん悪化していくことも分かっています。

 

 これらの研究により、アルツハイマー型認知症の患者は脳でのインスリンの働きや量が少ないことがわかり、このことが認知症発症の一因にあると考えられるようになりました。

 

インスリンという新しい治療のアプローチ

 インスリンは脳の神経細胞で作られて、それがグリア細胞に働きかけ、血液中の糖を神経細胞に取り込みます。神経細胞がエネルギー源である糖を得ることにより、脳が活発に働くようになります。

 

 アルツハイマー型認知症の方は、脳で作られるインスリンが少なく、そのため神経細胞は糖を上手く取り込めません。それにより神経細胞の働きが低下してしまい、脳が活性化せず、認知症の症状が現れてしまいます。

 

 これまでのアルツハイマー型認知症の治療はアミロイドβ中心のアプローチでしたが、新しい治療のアプローチとして、脳のエネルギー源であるブドウ糖、それを脳神経細胞に取り込みやすくするために、インスリンを使った新しい治療方法が研究されています。

 

 アメリカでは鼻から直接インスリンを脳に送り込んで、脳の神経細胞を活性化させようとする臨床試験が行われています。
 他にも、糖尿病で使ってきた薬をそのままアルツハイマー型認知症でも応用できないかという研究も進められています。この方法だと、既にある薬を利用するので、副作用も分かっていたり、開発期間も短期間で済むので実用まで早いのではと見られています。

 

 インスリンからのアプローチによって、アルツハイマー型認知症の根本原因の究明や根本治療への可能性が開かれてきました。

 

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